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玉ねぎのソテー
- 2007/09/27(Thu) -
玉ねぎをまとめて10ケ皮をむいてみじん切りにする。
目が痛くて涙がボロボロ出るけどおいしいカレーのためだ、ガマンする。
みじん切りにしたらまとめて中華なべにブチ込んで豚ラードで炒める。
10ケ分のみじん切りだから山盛りだし、弱火でキツネ色になるまで炒めるからめちゃくちゃ時間がかかる。
約2時間くらいか。
焦がしたらオジャンだから常に返してなければならず疲れる。
でもそれだけ炒めると、あんなにあった玉ねぎが小さめのタッパ一杯くらいに縮んでしまう。
さらに黒っぽくなるまで炒めると、ネチョっとしていた玉ねぎがパサパサになる。

ふつうのドロっとした英国式カレーとは別に、いわゆるインド式?カレーてのがある。
これが好きで。
高円寺にあったニャンキーズという店に週一回は通ってた。
そこで玉ねぎはとことん炒めるもんだと聞いた。
でもニャンキーズのマスターはキツネ色じゃダメだと言ってた。
「じゃ茶色ですか」と聞くと「真っ黒に近くないととダメです」

ニャンキーズから歩いて10分ほどのところにもひとつカレー屋があって、そこはひき肉のキーマカレーが得意だった。
「そんな炒めてられませんよ、私は揚げちゃいます」そうそこのマスターは言っていた。
ニャンキーズのマスターからしたら邪道だろうけど、そこのキーマカレーは美味しいので言わなかった。
シナモンを原型のままブチ込み、ひき肉と一緒に叩くように炒めてた。

「ナイルレストランのね、玉ねぎは炒め方が足りません」
それを聞いてナイルレストランへ行く機会を失った。
「デリーのね、インドカレーが最強だと思います。でものれん分けの柏のボンベイのインドのが美味いですね」
これには同意した。

そう言うマスターのニャンキーズはいつも夕方からしか営業していなかった。
無断休業もしょっちゅうで、30分かけて食べに行く僕は時々閉じたドアの前で途方に暮れた。
でも仕方ない、ここのカレーの味に取り憑かれていたんだから。
柏のボンベイは遠くて実家へ帰るときしか寄れないし、スーパーでも時々売ってるデリーはスタンダード、ニャンキーズが特別だった。
だから無断休業されても文句も言わずガマンしていた。
夕方からしか営業できないことにも理由があった。
午前中から5〜6時間かけて寸胴いっぱいの玉ねぎを弱火で炒めなきゃならなかったからだ。
毎日毎日玉ねぎ炒め続けてたいへんだったろうな。
店を開店するころにはかなり疲れていたんだろうな。
なんでアルバイト雇わなかったんだろう、そうも思ったが、そんなバイト誰がやるんだろう、とも思った。

マスターは長らく老いたお母さんと二人暮しだった。
お母さんが亡くなって半年もした頃、張り詰めていた心の糸が切れたかのように、突然店を閉じてしまった。
予告もなにも無かったから、ショックだった。
もう玉ねぎばかり炒めるのが嫌になっちゃったのかな。

マスターの信奉した柏のボンベイも、それからほどなくオヤジさんが高齢になったため閉店してしまった。
てっきりいっしょに調理場にいた娘婿らしき人が引き継ぐと思っていたのに、味は一代かぎりとでもいうのだろうか。
というわけで柏にもカレー難民が大量発生したはずだ。

それからは魂を抜かれた亡者のように自分で玉ねぎを炒めるようになった。
でも正直、真っ黒になるまで炒めてどう風味が違うのかいまだに分からない。
根本的に味覚オンチなのか、納得できるインドカレーを作れたことが一度もない。
だいたいバカみたいに時間をかけて玉ねぎ炒めるのも時間の無駄だ。
貴重な人生の時間の浪費だ、そうニャンキーズのマスターも思ったんだろうか。
でもどこへ行ったのか分からないし、聞く機会ももうないんじゃないか。
失礼な話だけど、マスターあなたにカレーを作る以上の重要な社会貢献のできる仕事があるのか疑問です。
頼むからまた店を再開して欲しいです。
もう玉ねぎも真っ黒になるまで炒めなくていいです。
僕ら素人には微妙な風味の見分けなんてつかないですから。
無理だろうけど・・・。
ご主人生粋のカレーヲタだったもんね。

今となっては湯島のデリーが聖地、それでいいや。
馴れたや。
でもときどき玉ねぎ炒めてしまう。
なんとかあの味が再現できないかと試行錯誤して。
黒っぽくするには玉ねぎ10ケだと3時間近くかかってしまうけど、それだけ炒めれば5人分×3は取れる。
最近はスーパーで茶色いオニオンソテーの瓶詰めが売ってるけど、どうなんだろうねあれ。
やたら高いし買ったことない。

「ウスターソースとかマンゴーチャツネとか、カレーの隠し味は店によっていろいろあるもんですが、うちはすり潰した梅干です」
へぇ〜。
もはやインドなどどうでもいい、美味しければそれでいいんだよね。
そんなマスターの決り文句は「けっきょく時間と材料費をかけた家庭のカレーにはかなわないんですよ」

そうかなぁ、それは違うと思うなぁ。
でももういないマスターに向かって反論もできないし、薄れゆく味の記憶を頼りに今日も玉ねぎを炒めるのだった。
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